漢詩作法入門講座

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字眼 - 詩學逢原

字眼

詩にも文にも、字眼と云うことあり。一篇の眼目あり、一句の眼目あり。詩文一篇の中、第一趣向專要の所、格別に神妙なる警句、或は一段、或は二句三句五句七句、是れ一篇の警策とも關鍵(かんけん)とも精神とも云う。皆字眼なり。

一句の中、一二字專要の文字ありて、此の字にて此の句活かし、此の字に非ざれば、此の句死する。人の眼目あるが如し。一篇の眼目は、見易く、又作り易し。一句の眼目は、作り難く、知り難し。先ず一句の中、專要の一字、力を入れざれば、面白からざる所、多くは一句縫い目の所に在り。縫い目とは、一句を綴るつなぎの所なり。

たとえば、輕風と細柳との四字は、古來よりの熟字にて、宜しき字なれども、輕風細柳とばかりにては、句にならず、意も無し。又澹月と梅花の四字も同斷なり。然れば、句に取結ぶ時、輕風細柳〇、澹月梅花〇か、又は輕風〇細柳、澹月〇梅花とか、此〇の處が、縫い目結び目の眼字にて、好句にも惡句にもなるなり。故に錬る處、第一ここにあり。

たとえば、輕風、細柳、澹月、梅花の八字は、錦を能き寸法に裁(き)りたるが如し。裁りたる分にては、いまだ衣にならず。そこを縫合せて、一領の衣となすは、縫い手の手際によるなり。下手の縫いたるは、猿の鼻しかめたるようにて、著用ならず。そこを上手の手際よく、針目正しきに至りて、誠の錦衣となる。古語にも「鴛鴦可縫、金針難(鴛鴦は縫うべし、金針は渡し難し)」と云えり。鴛鴦の形を、縫いにする。その形はなり易し。只針を渡す縫う手際が大事じゃと云う心なり。故に此の字眼の處に、手際が入るなり。

さて、右の八字にて作り立つるに、元來の趣向、輕風の細柳を吹き、澹月の梅花を照らすと云うこと、究まりて、誰も先思寄りて、誰も吹くと照らすにて、よく通ずれども、それにては、彼縫目、縫いならいの小女杯の手際の如く、きたなく拙くして、小兒の語も同じく、詩にはならず。此の處力を用いて工夫すべき處なり。

昔蘇東坡が妹、ことの外詩意に通じたりしが、或時坡老、山谷相會して、和風、細柳澹月、梅花の腰へ入れる一字錬り處にて句の工拙は、ここに在りとて、兩人久しく吟哦したり。東坡先ず一字を唱えて云(いわ)く、「和風搖細柳、澹月映梅花(和風 細柳を搖(うごか)し、澹月 梅花に映ず)」。妹の云(いわ)く、いまだ佳ならずと笑う。山谷次に唱えて云く、「和風舞細柳、澹月隱梅花(和風 細柳を舞わせ、澹月 梅花を隱す)」。妹の云く、少佳なり。兩人云く汝が句いかに。妹の曰く、「和風扶細柳、澹月失梅花(和風 細柳を扶(たす)け、澹月 梅花を失う)」。ここに於いて、さしもの兩人、掌を拍(うち)て嘆賞せしと云えり。右の句、東玻は甚だ淺し、山谷は少し意味あり。妹の句に至りては、人意の表に出て、奇なること甚だし。是を見て、字眼の味を知るべし。但其の錬るべき字句の腰のみにあらず。前に云うとおり、第一字より第七字まで、句の縫い目の所を錬るべし。

「氣蒸雲夢澤、波撼岳陽城(氣は蒸す 雲夢澤、波は撼(ゆる)がす 岳陽城)」といえるは、第二字を錬り、「呉楚東南坼、乾坤日夜浮。(呉楚 東南に坼(さ)け、乾坤 日夜浮ぶ)」と云うは、第五字を錬る。「問人遠岫千重意、對客間雲一片情。(人に問う 遠岫 千重の意、客に對(こた)う 間雲 一片の情)」と云うは、第一字を錬り、「花迎劍佩星初落。柳拂旌籏露未乾。(花は劍佩を迎えて 星初めて落ち。柳は旌籏を拂って 露未だ乾かず。)」と云うは、第二字を錬り、「旌籏日暖龍蛇動。宮殿風微燕雀高。(旌籏 日暖かにして 龍蛇動き。宮殿 風微かにして 燕雀高し。)」、此句は、第四字第七字を錬る。外に亦一種意もなく縫い目の字にも非ずして、用い樣にて、其句の巧拙雅俗分かるる字あり。僧齊巳が「前村深雪裏。昨夜數枝開。(前村 深雪の裏。昨夜 數枝開く。)」と云うを、鄭谷改めて「一枝開」となして、此句格別高妙になりたり。又杜詩の「鸚鵡啄餘香稲粒。鳳皇栖老碧梧枝。(鸚鵡 啄み餘す 香稲の粒。鳳皇 栖み老す 碧梧の枝。)」と云うを、其儘(そのまま)にては、何の趣も無く、常語になる故、上下へ裝いかえ、「香稲啄餘鸚鵡粒。碧梧栖老凰皇枝。(香稲 啄み餘す 鸚鵡の粒。碧梧 栖み老す 凰皇の枝。)」と、上下へなしたるにて、此句、精神甚高妙になりたり。王勃が「朱簾暮捲西山雨(朱簾 暮に捲く 西山の雨)」といえるも、他人是を作らば、「朱簾暮過」とか、「暮望」とか、甚卑劣にして、「捲簾暮望西山雨(簾を捲き 暮に望む 西山の雨)」なんど、大方此の如きなるべし。捲の一字にて、一句活動、精神甚格別なる者なり。是等皆縫い目の處にかまわず、字を錬りたる者なり。其鉞(てつ)を點じて金と成す。妙工よくよく作り覺ゆべきなり。

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