漢詩作法入門講座

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五言古詩(1) - 卷之一 - 唐詩選 - 漢詩の鑑賞

唐詩選とは

『唐詩選』は、李攀竜(1514〜1570。明代の詩人。字は于鱗、号は滄溟。)が編纂したと言われている唐代の漢詩集である。五言古詩十四首、七言古詩三十二首、五言律詩六十七首、五言排律四十首、七言律詩七十三首、五言絶句七十四首、七言絶句百六十五首、七巻から構成され、日本で最もよく読まれている漢詩集のひとつである。そのため参考書も数多く出版されている。

本サイトでは、主に漢詩の原文、読み、平仄などを中心に紹介するものとし、語釈などは既存のテキストに譲り、本サイトでは蛇足を付けました(見当違い、誤解など蛇が蛇でなくなる可能性がありますが、拙の勉強不足ですのでご容赦下さい)

述懷

原詩

「述懷(魏徴)中原還逐鹿。投筆事戎軒。縱横計不就。慷慨志猶存。』仗策謁天子。驅馬出關門。請纓繋南粤。憑軾下東藩。』鬱紆陟高岫。出沒望平原。古木鳴寒鳥。空山啼夜猿。』既傷千里目。還驚九折魂。豈不憚艱險。深懷國士恩。』季布無二諾。侯羸重一言。人生感意氣。功名誰復論。』」

【作者】

魏徴(ぎちょう)=(580〜643)。初唐の政治家。字は玄成。

【平仄】

鹿
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【読み方】

述懐(じゅっかい)

中原(ちゅうげん) 還(また)鹿(しか)を逐(お)い、筆(ふで)を投(とう)じて 戎軒(じゅうけん)を事(こと)とす。 縦横(じゅうおう) 計(けい)(な)らざるも、慷慨(こうがい) 志(こころざし)(なお)(ぞん)す。

(さく)を仗(つえ)つきて 天子(てんし)に謁(まみ)え、馬(うま)を駆(か)り 関門(かんもん)を出(い)づ。 纓(えい)を請(こ)うて 南粤(なんえつ)を繋(つな)ぎ、軾(しょく)に憑(よ)りて 東藩(とうはん)を下(くだ)す。

鬱紆(うつう)として 高岫(こうしゅう)に陟(のぼ)り、出没(しゅつぼつ)して 平原(へいげん)を望(のぞ)む。 古木(こぼく) 寒鳥(かんちょう)(な)き、空山(くうざん) 夜猿(やえん)(な)く。

(すで)に千里(せんり)の目(め)を傷(いた)ましめ、還(また)九折(きゅうせつ)の魂(こん)を驚(おどろ)かす。 豈(あに)艱険(かんげん)を憚(はなか)らざらんや、深(ふか)く国士(こくし)の恩(おん)を懐(おも)う。

季布(きふ) 二諾(にだく)(な)く、侯羸(こうえい) 一言(いちげん)を重(おも)んず。 人生(じんせい) 意気(いき)に感(かん)ず、功名(こうめい) 誰(たれ)か復(また)(ろん)ぜん。

【蛇 足】

  • 現在では、近体詩(今体詩)以外の詩の形式を総称して古詩(古体詩)と呼ぶ。その中には賦や楽府などを含むことがある。

  • 近体詩は唐代において確立していった詩形であり、その初めには現在の近体とか古体の区別はなかった。唐代においては、唐以前の詩が古体(古風ともいう)であったわけである。『唐詩選評釈(森槐南著)』に『唐初の五古、六朝卑弱の格を一変し、つとめて沈鬱頓挫の風を創す、この詩の如き之が嚆矢(かぶらや)と謂うも妨げなし。この詩に当りて未だいわゆる詩律なるものあらず、故にその声調大いに律詩に似たるものあり。』とあり。

  • この詩は、五言古詩一韻到底格である。五言古詩一韻到底格は、一句が五言で、偶数句に押韻し、その韻がすべて同一の韻のものを言う。その他の平仄、句数などは問わない。韻字(上平声 元韻)は、軒、存、門、藩、原、猿、魂、恩、言、論。

  • 十句、二十句、あるいはそれ以上の長い古詩では、四句にて一つの意味を構成することが多く(必ずしも四句に限定されるものではない)、これを「」と呼ぶ。この詩の場合、四句一解で、全部で五解となっている。

感遇

原詩

「感遇(張九齡)孤鴻海上來。池潢不敢顧。側見雙翠鳥。巢在三珠樹。矯矯珍木顚。得無金丸懼。』美服患人指。高明逼神惡。今我遊冥冥。弋者何所慕。』」

【作者】

張九齡(ちょうきゅうれい)=(673又は678~740),初唐から盛唐にかけての詩人。字は子壽。

【平仄】

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【読み方】

感遇(かんぐう)

孤鴻(ここう) 海上(かいじょう)より来(きた)り、池潢(ちこう) 敢(あえ)て顧(かえり)みず。

(かたわら)に見(み)る 双翠鳥(そうすいちょう)、巢(す)くうて三珠樹(さんしゅじゅ)に在(あ)り。

矯矯(きょうきょう)たる 珍木(ちんぼく)の顛(てん)、金丸(きんがん)の懼(おそ)れ無(な)きを得(え)んや。』

美服(びふく)は 人(ひと)の指(ゆび)さすを患(うれ)い、高明(こうめい)は 神(かみ)の悪(にく)みに逼(せま)る。

(いま)(われ) 冥冥(めいめい)に遊(あそ)び、弋者(よくしゃ) 何(なん)の慕(した)う所(ところ)かあらん。』

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【蛇 足】

  • 五言古詩一韻到底格であり、仄声の字にて押韻している。

  • 韻字(去声 遇韻)は、顧、樹、懼、惡、慕。

  • この詩、前六句一解、後四句一解。

  • 惡字、善悪の場合は入声藥韻、憎悪の場合は去声遇韻である。

感遇

原詩

「薊丘覧古(陳子昂)南登碣石館。遙望黄金臺。丘陵盡喬木。昭王安在哉。』覇圖悵已矣。驅馬復歸來。』」

【作者】

陳子昂(ちんすごう)=(661〜702)。初唐の詩人。字は伯玉。

【平仄】

   
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【読み方】

薊丘(けいきゅう)覧古(らんこ)

(みなみ)のかた碣石館(けつせきかん)に登(のぼ)り、遙(はるか)に黄金台(おうごん)を望(のぞ)む。

丘陵(きゅうりょう) 尽(ことごと)く喬木(きょうぼく)、昭王(しょうおう) 安(いずく)に在(あ)りや。

覇図(はと) 悵(ちょう)として已(や)みぬ、馬(うま)を駆(か)り 復(また)(かえ)り来(きた)る。

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【蛇 足】

  • 五言古詩一韻到底格、韻字(平声 灰韻)は、臺、哉、來。

  • この詩、前四句一解、後二句一解。

  • 碣石館を碣石坂に作るものあり。

子夜呉歌

原詩

「子夜呉歌(李白)長安一片月。萬戸擣衣聲。秋風吹不盡。總是玉關情。』何日平胡虜。良人罷遠征。』」

【作者】

李白(りはく)=(701〜762)。盛唐の詩人。字は太白。青蓮居士と号す。「詩仙」と称される。

【平仄】

    
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【読み方】

子夜(しや)呉歌(ごか)

長安(ちょうあん) 一片(いっぺん)の月(つき)、万戸(ばんこ) 衣(ころも)を擣(う)つ声(こえ)

秋風(しゅうふう) 吹(ふ)き尽(つ)くさず、総(すべ)て是(これ) 玉関(ぎょくかん)の情(じょう)

(いず)れの日(ひ)か 胡虜(こりょ)を平(たい)らげて、良人(りょうじん) 遠征(えんせい)を罷(や)めん。

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【蛇 足】

  • 五言古詩一韻到底格、韻字(下平声 庚韻)は、声、情、征。

  • この詩、前四句一解、後二句一解。

  • 「子夜呉歌」は楽府題で、東晋(317 - 420)の世の子夜という女性が始めて作ったと言われている民謡で、東晋の都は呉にあ ったので、呉歌という。

  • 楽府は、漢の武帝が設けた音楽や歌を編輯して演奏した役所の名称であり、各地の民謡などの採取も行った。こうして集められたものを「楽府詩」と呼ぶ。もともとは、曲に詞をつけて演奏され、歌われていたが、後には、その形式や詩題(これを楽府題という)を使った演奏されない詩歌をも「樂府」と呼ぶようになる。

經下邳圯橋懷張子房

原詩

「經下邳圯橋懷張子房(李白)子房未虎嘯。破産不爲家。滄海得壯士、椎秦博浪沙。』報
韓雖不成、天地皆振動。潛匿遊下邳。豈曰非智勇。』我來圯橋上、懷古欽英風。唯見碧流水。曾無黄石公。嘆息此人去、蕭條徐泗空。』」

【作者】

李白(りはく)=(701〜762)。盛唐の詩人。字は太白。青蓮居士と号す。「詩仙」と称される。

【平仄】

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【読み方】

經下邳圯橋懷張子房 (下邳(かひ)の圯橋(いきょう)を経(へ)て張子房(ちょうしぼう)を懐(おも)う)

子房(しぼう) いまだ虎嘯(こしょう)せず、産(さん)を破(やぶ)りて 家(いえ)を為(な)さず。

滄海(そうかい)に 壮士(そうし)を得(え)て、秦(しん)を椎(つい)す 博浪沙(はくろうさ)。」

(かん)に報(ほう)じて 成(な)らずと雖(いえど)も、天地(てんち) 皆(み)な震動(しんどう)す。

潜匿(せんとく)して 下邳(かひ)に遊(あそ)び、豈(あ)に智勇(ちゆう)に非ずと曰(い)わんや。」

(われ) 圯橋(いきょう)の上(うえ)に来(き)たりて、古(いにしえ)を懐(おも)うて 英風(えいふう)を欽(した)う。

(た)だ碧流(へきりゅう)の水(みず)を見(み)て、曽(かつ)て黄石公(こうせきこう)(な)し。

歎息(たんそく)す 此(こ)の人(ひと)(さ)りて、蕭条(しょうじょう)として 徐泗(じょし)の空(むな)しきを。」

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【蛇 足】

  • この詩は、五言古詩換韻格。韻字は、下平声麻韻(家、沙)、 上声董韻(動、勇、勇は上声腫韻であるが、ここでは通韻としている)、上平声東韻(風、公、空)。

  • この詩、前四句一解、中四句一解、後六句一解の三解から構成される。

  • 換韻格の場合、通常、解ごとに平韻、仄韻と押韻を変える。

  • 通韻とは、異なる韻であるが、似通った韻の場合、同一グループの韻字としてしようできるものをいい、通用とも呼ぶ。主に古詩に用い、近体詩の絶句や律詩などでは通韻を認めていない。

  • 張子房(張良)は、秦末期から前漢初期の政治家・軍師、字は子房。『史記、留侯世家』に「(前略)良、曾て淮陽に礼を学ぶ。東のかた滄海君に見え、力士を得て、鉄椎重さ百二十斤なるを為す。秦の皇帝東游す。良、客と秦の皇帝を博浪沙中に狙擊す。誤って副車に中る。秦の皇帝大いに怒り、天下を大索し賊を求むること甚だ急なり。張良の故が為なり。良、乃ち名姓を更え、亡げて下邳に匿る。良、曾て閒に從容して步き、下邳の圯上に游び、一老父有り。褐を衣て、良の所に至る。直ちに其の履を圯下に墮し、顧みて良に謂って曰く、孺子下りて履を取れと。良、鄂然として之を毆らんと欲するも、其の老いたるが為に彊忍して下りて履を取る。父曰く、我に履せよと。良が業の為に履を取り、因って長跪して之を履す。父足を以て受け、笑って去る。良殊に大いに驚き、隨って之を目す。父去ること里所、復た還りて曰く、孺子教教うべし、后五日平明、我と此に会せよと。良、因って之を怪しみ、跪いて曰く、諾すと。五日平明、良往き、父已に先に在り。怒りて曰く、老人と期して、后るるは何ぞやと。去って曰く、后五日早く会せよと。五日雞鳴き、良往く。父又先に在り。復た怒りて曰く、后るるは何ぞやと。去って曰く、后五日復た早く来れと。五日、良夜未だ半ばならず往く。有頃、父亦来る。喜んで曰く、当に是の如くなるべしと。一編の書を出して、曰く、此を読めば則ち王者の師と為らん、后十年にして興らん、十三年孺子我を濟北に見ん、穀城山下の黃石は即ち我なりと。遂に去りて、他の言無く、復た見えず。旦日其の書を視れば、乃ち太公の兵法なり。良因りて之を異とし、常に習いて之を誦讀す。(中略)後十三年、高帝に従いて濟北を過ぐ。果して穀城山下に黃石を見る,取りて之を葆祠す。(後略)」とあり。

後出塞

原詩

「後出塞(杜甫)朝進東門營。暮上河陽橋。落日照大旗。馬鳴風蕭蕭。』平沙列萬幕。部伍各見招。中天懸明月。令嚴夜寂寥。』悲笳數聲動。壯士慘不驕。借問大將誰。恐是霍嫖姚。』」

【作者】

杜甫(とほ)=(712〜770)。盛唐の詩人。字は子美。号は少陵野老、杜陵野老、または杜陵布衣。杜少陵、杜工部とも呼ばれる。

【平仄】

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【読み方】

後出塞(こうしゅっさい)

(あした)に東門(とうもん)の営(えい)に進(すす)み、暮(くれ)に河陽(かよう)の橋(はし)に上(のぼ)る。

落日(らくじつ) 大旗(たいき)を照(て)らし、馬(うま)(な)いて 風(かぜ)蕭蕭(しょうしょう)たり。」

平沙(へいさ) 万幕(ばんまく)を列(つら)ね、部伍(ぶご) 各々(おのおの)(まね)かる。

中天(ちゅうてん) 明月(めいげつ)(か)かり、令厳(れいげん)にして 夜(よる)寂寥(せきりょう)たり。」

悲笳(ひか) 数声(すうせい)(うご)き、壮士(そうし) 惨(さん)として驕(おご)らず。

借問(しゃもん)す 大将(たいしょう)は誰(たれ)ぞ、恐(おそ)らくは是(こ)れ 霍嫖姚(かくひょうよう)ならん。」

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【蛇 足】

  • この詩は、五言古詩一韻到底格。韻字は、下平声蕭韻(橋、蕭、招、寥、驕、姚)。

  • 古詩においても二句一塊で構成されるが、そのとき前句を出句、押韻される後句を落句と呼ぶ。

  • 五言古詩一韻到底格では、落句に押韻し、その韻字が同じ韻のグループとなる。ただし、通韻を用いる場合も多い。また、押韻の平仄と異なる平仄を出句に用いる例も多くあるが、例えば、出句、落句ともに平字、あるいは仄字を用いることも妨げない。

  • この詩、前四句一解、中四句一解、後四句一解の三解から構成される。

  • 出塞は、楽府題。杜甫には、前出塞九首、後出塞五首がある。

玉華宮

原詩

「玉華宮(杜甫)溪囘松風長。蒼鼠竄古瓦。不知何王殿。遺構絶壁下。』陰房鬼火青。壞道哀湍瀉。萬籟眞笙竿。秋色正瀟灑。』美人爲黄土。況乃粉黛假。當時侍金輿。故物獨石馬。』憂來藉草坐。浩歌涙盈把。冉冉征途閒。誰是長年者。』」

【作者】

杜甫(とほ)=(712〜770)。盛唐の詩人。字は子美。号は少陵野老、杜陵野老、または杜陵布衣。杜少陵、杜工部とも呼ばれる。

【平仄】

殿
竿
輿
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【読み方】

玉華宮(ぎょくかきゅう)

(たに)(めぐ)りて 松風(しょうふう)(なが)く、蒼鼠(そうそ) 古瓦(こが)に竄(かく)る。

(し)らず 何(いず)れの王(おう)の殿(でん)ぞ、遺構(いこう) 絶壁(ぜっぺき)の下(もと)。」

陰房(いんぼう) 鬼火(きか)(あお)く、壊道(かいどう) 哀湍(あいたん)(そそ)ぐ。

万籟(ばんらい) 真(しん)の笙竿(しょうう)、秋色(しゅうしょく) 正(まさ)に瀟灑(せいれい)。」

美人(びじん) 黄土(こうど)と為(な)り、況(いわん)や乃(すなわ)ち 粉黛(ふんたん)の仮(か)をや。

当時(とうじ) 金輿(きんよ)に侍(じ)せるは、故物(こぶつ) 独(ひと)り石馬(せきば)。」

(うれ)え来(きた)りて 草(くさ)を藉(し)いて坐(ざ)せば、浩歌(こうか) 涙(なみだ)(は)に盈(み)つ。

冉冉()ぜんぜんたる 征途(せいと)の閒(かん)、誰(たれ)か是(こ)れ 長年(ちょうねん)の者(もの)ぞ。」

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【蛇 足】

  • この詩は、五言古詩一韻到底格。韻字は、上声馬韻(瓦、下、瀉、灑、假、馬、把、者)。

  • この詩、四句を一解とし、全四解から構成される。

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