漢詩作法入門講座

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江馬細香(1) - 漢詩の鑑賞

作者小伝

江馬細香(エマ サイコウ)(1787~1861)。天明七年、大垣藩医江馬蘭斎の第二子、長女として生まれる。彼女は、父の手ほどきを受けて幼少より詩文に親しんでいた。また、墨竹、南宗画などもよくした。

文化十年(1813)、頼山陽が蘭斎を訪れ、彼女は初めてこの偉大な文人と出会う。この山陽を介して、武元登登庵、浦上春琴、小石元瑞らの京の文人達との交流が始まり、詩画の技を大いに高める。一方、郷里においても、梁川星巌、村瀬藤城らと集い、詩社「白鴎社」を結び、盛んに詩酒を戦わせた。文久元年九月四日、七十五才で没。

春日即事

「春日即事」東風剪剪入簾帷。試訪梅花下砌遅。一朶幽香斜日裏。先儂已有凍蜂知。

【読み方】

春日即事(シュンジツソクジ)

東風(トウフウ) 剪剪(センセン)として 簾帷(レンイ)に入(イ)る。試(ココロ)みに梅花(バイカ)を訪(ト)うも 砌(ゼイ)に下(オ)りること遅(オソ)し。

一朶(イチダ)の幽香(ユウコウ) 斜日(シャジツ)の裏(ウチ)。儂(ワレ)に先(サキ)だって 已(スデ)に凍蜂(トウホウ)の知(シ)る有(ア)り。

【語 釈】

即事=その場のできごと。目の前の景色、様子。東風=東から吹いてくる風。春風のこと。剪剪=風がさっさっと吹くさま。風がうら寒いさま。簾帷=すだれやとばり。簾はすだれ、帷はとばり。並列関係語。=みぎり。軒下に並べて敷いた石畳。一朶=一枝。一枝の花。幽香=おくゆかしい香り。幽馥に同じ。斜日=西に傾いた日。夕日。斜陽、斜照に同じ。=わし、われ。我の俗語。凍蜂=冬越えの蜂。

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惜春

「惜春」小園無計住芳春。紅処凋残緑処新。贏得儂家侍児懶。欄辺不掃落花塵。

【読み方】

惜春(セキシュン)

小園(ショウエン)(ハカ)る無(ナ)し 芳春(ホウシュン)を住(トド)むるに。紅処(コウショ) 凋残(チョウザン)して 緑処(リョクショ)(アラ)たなり。

(カ)ち得(エ)たり 儂(ワ)が家(ヤ)の 侍児(ジジ)(ラン)にして。欄辺(ランペン)(ハラ)わざる 落花(ラッカ)の塵(チリ)を。

【語 釈】

小園=小庭に同じ。 無計=計は、はかりごと。計策、計略。 芳春=いろいろの花の咲き誇る春。 凋残=草木がしおれる。枯れていたむ。残は、そこなわれる、いたむの義。 贏得=結局のところ…だけが得たものとして残る意。この詩の場合は「落花塵」にかかる。 侍児=こしもと、侍女。 =おこたる、なまける。 欄辺=てすりの辺り。欄干の辺り。

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偶作

「偶作」春窗寂寂晝慵開。中酒情懷冷似灰。三日不添鳧鴨火。臥聞朝雨灑殘梅。

【読み方】

偶作(グウサク)

春窓(シュンソウ) 寂寂(セキセキ)(ヒル)、開(ヒラ)くに慵(モノウ)し。酒(サケ)に中(アタ)りて 情懐(ジョウカイ)(ヒヤ)やかなること灰(ハイ)に似(ニ)たり。

三日(ミッカ)(ソ)えず 鳧鴨(フオウ)の火(ヒ)。臥(ガ)して聞(キ)く 朝雨(チョウウ) 残梅(ザンバイ)に灑(ソソ)ぐを。

【語 釈】

春窓=春の窓辺。また窓。 寂寂=さびしいさま。静かなさま。寂然に同じ。 =ものうい。うっとおしい。 中酒=酒を飲みすぎて気分が悪くなること。中毒の「中」に同じ。「あたる」と訓む。この場合は、仄字となる。平字の場合はなか、うちの意味に用いる。 情懐=心中の思い。 鳧鴨火=香炉の火。鳧鴨は、かもの形をした香炉のこと。 朝雨=朝方に降る雨。 残梅=散り残りの梅。「残」は、残りの意味ではなく、損なわれたということ。

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春盡

「春盡」不聞鐘響到閨扉。曉夢沈沈臥翠幃。半點灯揺斷腸雨。故將春睡送春歸。

【読み方】

春尽(シュンジン)

(キ)かず 鐘響(ショウキョウ) 閨扉(ケイヒ)に到(イタ)るを。曉夢(ギョウム) 沈沈(チンチン)として 翠幃(スイイ)に臥(ガ)す。

半点(ハンテン)(トウ)は揺(ユ)らぐ 断腸(ダンチョウ)の雨(アメ)。故(コトサ)らに春睡(シュンスイ)を将(モッ)て 春(ハル)の帰(カエ)るを送(オク)らん。

【語 釈】

春尽=春尽きる。春が終わること。 鐘響=明け方に鳴る鐘の響き。 閨扉=婦人の部屋のとびら。 曉夢=明け方に見る夢。 沈沈=静まりひっそりとしたさま。 翠幃=翠帷に同じ。緑色のとばり、カーテン。婦人の寝室のこと。 半点=少しばかり。 断腸雨=春の散り残りの花も落としてしまう憎らしい雨。 故将春睡送春帰=雨で落とされた無残な景色を見たくないから、眠ったまま春が去っていくのを送ろう、の意。

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夏夜

「夏夜」雨晴庭上竹風多。新月如眉繊影斜。深夜貧涼窗不掩。暗香和枕合歡花。

【読み方】

夏夜(カヤ)

(アメ)(ハ)れて 庭上(テイジョウ) 竹風(チクフウ)(オオ)し。新月(シンゲツ)(マユ)の如(ゴト)く 繊影(センエイ)(ナナ)めなり。

深夜(シンヤ)(リョウ)を貪(ムサボ)り 窓(マド)を掩(オオ)わず。暗香(アンコウ)(チン)に和(ワ)す 合歓花(ゴウカンカ)

【語 釈】

竹風=竹林に吹く風。 新月=三日月のこと。初月に同じ。 繊影=やわらかで細い影。暗香=どこからともなく漂ってくるよい香り。 和枕=よい香りが枕辺にただようこと。 合歓花=ねむの木。合歓木ともいう。「合歓」、喜びを共にする。楽しみあう。また、夫婦がむつびあうことを意味する。

三日月のことを「繊月」、美人の形容に眉が細いことを例えて「繊眉」、くもりのことを「繊翳」という。こうしたことからも「繊」の字は、「雨晴」、「竹風」、「新月」、「如眉」に照応している語と思われる。

「窓不掩」は、文法上、「不掩窓」とすべきであるが、詩には平仄があるために仕方なく語順を入れ換えた。ただし、初心者の方は、どんな場合にでも平仄に合わせて語順を変更できるものと思いがちであるが、できる場合とそうでない場合があるので、通常は文法上無理のない語順を選ぶべきである。また、どうしても語順を入れ換える場合には、先人の詩に利用されているものをよく研究してから用いるべきである。

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