漢詩作法入門講座

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起聯物喩人對格 - 聯珠詩格 - 漢詩の鑑賞

起聯物喩人對格

起聯物喩人對格とは、起聯(第一句と第二句)において物の事象を人の事象に比喩し対句とする格をいう。

天津感事

原詩

「天津感事(邵康節)水流縱急境常靜。花落雖頻意自閑。不似世人忙裏老。生平未始得開顔。」

【作者】

邵康節(しょうこうせつ)=邵雍(しょうよう)、(1,011〜1,077)。中国・北宋時代の儒学者。字は堯夫、康節は諡。

【詩形】

七言絶句 平起式 上平声刪韻

【読み方】

天津(てんしん)、事(こと)に感(かん)

(みず)(なが)れて 縦(たと)い急(きゅう)なるも 境(さかい)(つね)に静(しず)かに、花(はな)(お)ちて 頻(しき)りなりと雖(いえど)も 意(い)(おの)ずから閑(かん)なり。

(に)ず 世人(せじん)の忙裏(ぼうり)に老(お)い、生平(せいへい) 未(いま)だ始(はじ)めより 顔(かお)を開(ひら)くことを得(え)ざるに。

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【語 釈】

天津感事=天津橋で感じたことを詩にしたという意。天津は橋の名。隋の煬帝が洛陽を流れる洛水にかけた橋。橋の辺りには酒楼もあり非常に賑わう場所であった。また橋の上には四角の亭があり、「天津暁月」は洛陽八景の一つとされている。現在は、コンクリート製の橋の横に石橋のモニュメントがある。縱急=縱は、たとい。仮令に同じ。世人=世間の人々。忙裏老=忙しくしているうちに年取ること。生平=日頃、平常。開顔=笑顔を浮かべること。

精刊本、起聯の注に「動中有静意(動中に静意有り)」、後聯の注に「言人世擾擾不若水静花閑也(言は人世擾擾として水静かに花閑なるに若かざるなり)」とあり。

書酺池書堂

原詩

「書酺池書堂(黄山谷)小黠大癡螳捕蟬。有餘不足夔怜蚿。退食歸來北窗夢。一江風月趁漁船。」

【作者】

黄山谷(こうさんこく)=黄庭堅(こうていけん)、(1045〜1105)。北宋の人。字は、魯直、山谷道人、また、涪翁などと号す。師の蘇軾と並び蘇黄と称される。

【詩形】

七言絶句 仄起式 下平声先韻
退

【読み方】

酺池(ほち)の書堂(しょどう)に書(しょ)

小黠(しょうかつ) 大癡(たいち) 螳(とう)、蝉(せん)を捕(とら)え、有余(ゆうよ) 不足(ふそく) 夔(き)、蚿(げん)を怜(うらや)む。

退食(たいしょく) 帰(かえ)(きた)来る 北窓(ほくそう)の夢(ゆめ)、一江(いっこう) 風月(ふうげつ) 漁船(ぎょせん)を趁(お)う。

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【語 釈】

酺池書堂=酺池は酺池寺、増注に「開封府浚儀県の西北に在り」とあり。現在の河南省開封市。書堂は、書斎。山谷詩集には「寺斎睡起」に作る。小黠大癡=黠は慧、癡は不慧。慧はさとい、賢いこと。螳捕蟬=荘子外篇の山木篇に見える「蟷螂捕蝉」の故事をいう。夔怜蚿=夔は伝説の一本足獣、蚿はムカデ。莊子外篇の秋水篇に「夔憐蚿、蚿憐蛇、蛇憐風、風憐目、目憐心」とあり。怜は憐に同じ。退食=官職を退くこと。北窗夢=書斎の窓。書斎は北向きが良いとされている。また、北窓高臥の語あり。風月=清風明月。趁漁船=漁船に乗る。趁は乗る。

精刊本、起聯の注に「夔一足蚿多足螳蟬夔蚿事並見荘子意謂巧詐之相傾知愚之相角与此数虫無異得失安在哉(夔は一足、蚿は多足、螳蟬夔蚿の事並びに荘子に見ゆ、意に謂う巧詐の相傾る、知愚の相角ぶ、此の数虫と異なること無し、得失安くにか在る)」とあり。

謝逸士

原詩

「謝逸士(張忠寶)寒蛩夜靜忙催織。戴勝春歸苦勸耕。人若無心濟天下。不知蟲鳥又何情。」

【作者】

張忠寶(ちょうちゅうほう)=未詳。作者を傅霖とするものあり。傅霖は、北宋の人、其の他については未詳。

【詩形】

七言絶句 平起式 下平声庚韻

【読み方】

逸士(いつし)に謝(しゃ)

寒蛩(かんきょう) 夜(よる)(しず)かに 忙(いそが)しく織(お)るを催(うなが)し、戴勝(たいしょう) 春(はる)(かえ)りて 苦(ねんご)ろに耕(たがや)すを勧(すす)む。

(ひと)(も)し天下(てんか)を済(ととの)うに心(こころ)(な)くんば、知(す)らず 虫鳥(ちゅうちょう) 又(また)(なん)の情(じょう)ぞ。

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【語 釈】

謝逸士=逸士は隠者に同じ。作者を傅霖とし、「題壁」とするものあり。寒蛩=晩秋のコオロギ。忙催織=織は、機織り。コオロギの別名を促織という。寒くなるとコオロギの鳴き声が冬着の仕度に機織りを急げと促がすように聞こえることからいう。戴勝=郭公、布穀に同じ。鳥の名、和名カッコウ。苦勤耕=二十四節気のひとつ「穀雨」の頃、カッコウが鳴き、農作業を勧むをいう。七十二候のうち穀雨の末候を日本では、「牡丹華(牡丹の花が咲く)」と言うが、中国では「戴勝降于桑(戴勝が桑の木に止って蚕を生む)」と言う。濟天下=世の中を治める。済世。不知虫鳥又何情=世の中を治めるのに心なければ、機織りや農作業などを勧めるコオロギやカッコウに及ばないと諷したもの。

精刊本、起聯の注に起聯注に「耕織乃人事之大務故専言之(耕織は乃ち人事の大務にして故に専ら之を言う)」、後聯注に「此言可以人而不如物(此の言は人を以て物に如かざるべし)」とあり。

江上即事

原詩

「江上即事(曾耒)黄牛嗜草苦溪隔。白鷺窺魚愁水深。一飽各知能幾許。看渠得失也關心。」

【作者】

曾耒(そうらい)=未詳。

【詩形】

七言絶句 平起式 下平声侵韻

【読み方】

江上(こうじょう)即事(そくじ)

黄牛(こうぎゅう) 草(くさ)を嗜(この)みて 渓(たに)の隔(へだ)てるを苦(にが)み、白鷺(はくろ) 魚(うお)を窺(うかが)いて 水(みず)の深(ふか)きを愁(うれ)う。

一飽(いっぽう) 各々(おのおの)(し)る 能(よ)く幾許(いくばく)ぞ、渠(かれ)が得失(とくしつ)を看(み)て 也(ま)た心(こころ)に関(かん)す。

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【語 釈】

江上=川のほとり。即事=その場のことを詠じた詩。黄牛=農耕用の牛、水牛と区別して言う。黄褐色で中国の一般的な牛。白鷺=白い鷺。一飽=満腹になること。能幾許=知ることがどれほどできただろうか、いや知ることができていない。反語の用法。幾許は、どれほど、いかほど。幾何に同じ。=彼に同じ。三人称代名詞。得失=得ると失うと。得と損。=また、やはり。助字の書き下しは平仮名(ここでは、「また」)があるべき姿であるが、本講座ではあえて訓みを付している。関心=物事に対する興味。ここでは損得のみに心奪われること。

精刊本、起聯注に「描出物態所以勧人随分耳(物態を描出し、人の分に随うを勧むる所以のみ)」、後聯注に「借物以喩世人之役役於貪得者(物を借り以て世人の得るを貪るに役役たる者に喩う)」とあり。

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